宇宙英雄物語

角川書店版表紙(平成元年発行)

DATE
原    題 The future retro Story
作    者 伊東岳彦
種    類 コミック

Story
ある日、私立恒星高校は謎の巨大宇宙船の襲撃を受けていた。
その光景は、まるでどこぞのB級映画のごとく、中にいた学生、教師、校舎へ混乱をを与えている。 逃げ惑う中に、高校生とは言え、めりはりのないボディラインを持つ女子生徒がいた、彼女の名は椎原咲美。 彼女を追いかけ、グラウンドに飛び出した赤毛の男子生徒が叫ぶ。
彼の名は護堂十字、この恒星高校の理事長の孫であり、登校初日からとんでもない出来事に巻き込まれた 主人公である。
巨大宇宙船の司令室にいる、謎の人物はその姿を見かけ呟く。
「約束の時間だよ」
咲美と十字がクラウンド中央に足を踏み入れた途端、鮮やかな放電が開始される。
「な、なんだぁ?」
十字が訝しげに呟く。いきなりグラウンドが光り輝き、魔方陣が地面を彩る。
その言葉と共に、二つに割れた地面からは巨大な影が、まるで海底から浮かび上がる鯨影の如く姿を見せた。
先端は球、後方に向かって絞り込まれた姿は、まるで涙を思わせる様な形状である。後方には付属して大小 多数の噴射口が伺う事が出来る。一部からはゆらりと陽炎が立ち昇り、古色蒼然とした姿は昔懐かしい宇宙船 である事を表していた。古いSFに詳しい人間ならば気がつくかも知れない、これは「涙滴型宇宙船」である。
その姿に十字は心躍らせた。今すぐにでも地球の「重力」と言う枷を振り切って宇宙(そら)に向かい、攻撃を してくる宇宙船に対抗できるかも知れない。
ハッチを開き乗り込んだ十字たちは、操縦席へと足を進めた。
「わはははははは、ロジャーの血族よ!我と闘え!」
コクピット内にスピーカーから放たれた声が響く。
「に,逃げろ…」
「あのねぇ!」
「まかせろ!マニュアルを読んだ限り、こいつは太陽系最大の性能を誇っているらしい、動かす事が出来りゃぁ…」
「君はねぇ!」
「とりあえず、俺を信じろっ!」
「いったいどこからその『自信』はくるのよ?」
お互い、どこかズレ気味な会話を続けている最中、突如通信用スクリーンに映像が飛び込んできた。
「お助けください、私は公女ステラ・レイナード。帝王ブラスの船に囚われの身となっております」
「なんだぁ?話がでかくなってきたな?」
「お願いです!このままでは大切な…ああっ!」
スクリーンの中では、繰り広げられる暴虐によりステラ公女の姿は消え、代わりに姿を現したのは全身をマントと胡散臭い 装備を身に纏った人物が姿を見せる。
「まってろよぉ、ブラスっ!俺が倒してやるぜっ!」
今、壮大な英雄達の物語が始まった!

解説
時は現代、所は中野区、光すら燃える恒星高に、愛機星詠み号(フォーチュナー)を駆るこの男
太陽系最大の快男児にして高校生、護堂十字。だが…人は彼を「宇宙英雄」と呼ぶ!
(Na:広川太一郎 「オリジナルアルバム 宇宙英雄物語」-ワーナーパイオニア版-より)
SFのジャンルに「スペースオペラ」と呼ばれるものがあります。
簡単に説明をしますと…
1920年代、アメリカの雑誌社で「西部劇」の小説が一大ブームを迎えました。そのドラマ展開は、 あまりにも定番のパターンだった為に、揶揄も含め「ホースオペラ」と呼ばれてしまいます。
時代は流れ、10年ほど後、再度アメリカで、SFに新ジャンルが産声をあげました。
その中にどこかで見たような作品群が見受けられます。馬が宇宙船へ、手にする拳銃は光線銃へ、物語 の最後はハッピーエンド。「ホースオペラ」で培ったパターンをそのまま、舞台を宇宙に移し変えただ けだったのです。人々はそれらを「スペースオペラ」と呼びました。玉石混合の状態がある程度続いた 頃、そのジャンルの中にも、新機軸を打ち出した作品が生まれます。
その数多の作品の中、ある程度の科学性を元に有名なシリーズが産声をあげました。
その名は「キャプテン・フューチャー」
科学者かつ冒険家を主人公にして、巨大な金属製のロボット、青白い肌の合成人間、生きている脳髄を パートナーにして「涙滴型宇宙船」を駆り、宇宙を所狭しと駆け巡る彼らの冒険活劇が当時の読者に 受け入れられる事となります。日本でも25〜6年前にNHKでTVアニメ化されたので、ご存知の方もいら っしゃると思います。(主演の声を広川太一郎!)
彼らの冒険活劇も記憶のかなたに忘れ去られて40年ほどたったある日、アメリカより遠く海を隔てた 島国、日本で新しい「スペースオペラ」が生まれました、
それが今回紹介した…「宇宙英雄物語」です。
主人公は、偉大な赤毛の冒険家を祖父に持つ高校生、祖父の遺産は「涙滴型宇宙船」脇を固めるのが、 金属製のロボット、透明なケースの中で主人公の知恵袋役を担当する「生きる脳髄」…
どうですか、この細かいネタだけでもわくわくしてきませんか?いやぁ、これはたまりませんよ。一時 期は「スターウォーズ」が怪しい「宇宙」を描き「娯楽作」の代表か?と思っていたのですが、新シリ ーズ(特別編)では、その「娯楽性」を一切排してしまった感があります。そのわくわくした感覚が意 外な所から出てくるとは思いませんでした。
還ってきた「スペースオペラ」が楽しめるこの作品…いかがです?
(個人的には「銀河英雄伝説」は「スペースオペラ」では無いと思っておりますのでそこはご了承願います(^^;)